【第1回】「初音ミク」ブームに火を付けたのは、誰?(その2.5)

最近ニコ動文化論を、卒論のときよりも真面目に研究している気がする、そんなボクです。
さて、今回は(その2.5)です。けんぷファーじゃないですけど。
なんでこんなエントリーを書くことになったかというと、その2のエントリーが「感覚」でしかものを言っていなくて、「証拠」が何もなかったからなんですね。
というわけで、必死こいてデータを集めてきて、昨日まとめで主張したことを証明しようとしたわけです。
データを集められる時間が少なかったので、少し弱い分析ですが、「あぁ、数字で見ても確かにそうっぽいなぁ」と思ってもらえれば、ボクの勝ちです。

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それでは本題に入っていきます。
昨日のエントリーのまとめで主張したことは以下のこと。

初音ミクが登場したときは、人数が今よりずっと小規模で、投稿動画も少なかった時期だった。
・当時は今よりも動画にたどり着く導線が少なく、マイリストランキングページが非常に重要な動画案内所となっていた。
・当時の主流ユーザーは、ランキングに入っている中から、幅広いジャンルの動画を見ていた。
・マイリストランキングで上位に来る動画は、「ニコ厨」みんなが知っている動画で、マイリストランキング内での流行=ニコニコでの流行だった。

昨日のエントリーでは、一番上以外は何ひとつ根拠となるものがなかったため、どうにかして集めようとしてきました。
一応、雰囲気確かにそういえるかも知れないな、くらいの資料は用意したのでご覧ください。


今回使用したデータは、http://www.nicochart.jp/さまで拾った、過去のランキングデータです。
対象日は、2007年8月25日(土)と2012年1月19日(木)のデータ。(ニコニコチャートは、午前5時の終値をその日のランキングとして記録しているため、前日のランキングとして発表しているニコ動とは1日異なる。例えば、ニコニコチャートで1月19日のデイリーとされているランキングは、ニコ動では1月18日のデイリーランキングとして発表されている)
なぜこんな中途半端な日付での比較になってしまったかというと、単に初音ミク発売前1週間のデータと現在の直近1週間のデータを比較しようとしたけれど、時間の都合で1日ずつだけのデータ比較しか出来なかったから。
これが卒論とかなら怒られるレベルですが、あくまでも趣味の領域だとして勘弁してください。

さて、ランキングデータの中でどんなデータを拾ったかというと、デフォルトランキングデイリーTOP100にランクインした動画の各再生数と、デイリー再生TOP300にランクインした動画の各再生数。ちなみに、デフォルトランキングとは2007年はデイリーマイリストランキング、2012年はデイリー総合ランキングのことを言います。(2012年1月19日のデフォルトランキングとして使用したランキングは、ニコ動では1/18とされているこのランキングです→ http://www.nicovideo.jp/ranking/fav/daily/all/20120118


重要なのは、このデータを使って何を分析したか。今回は以下の分析をしてみました。
・1日の総動画再生数のうち、デフォルトランキングTOP100の総再生数が占める割合
・それぞれの日の、デフォルトランキングTOP100に入った動画の各再生数と、再生ランキングTOP100に入った動画の各再生数の差
この分析で、昨日の主張の
・当時は今よりも動画にたどり着く導線が少なく、マイリストランキングページが非常に重要な動画案内所となっていた。
・当時の主流ユーザーは、ランキングに入っている中から、幅広いジャンルの動画を見ていた。
を証明しようと思います。


まず分析したのは、「1日の総再生数のうち、デフォルトランキングTOP100の総再生数が占める割合」です。
仮説として、このパーセンテージが高いほど、ユーザーはデフォルトランキングを使用して動画を見ていることになります。
ここで問題となるのは、1日の総再生数をどのようにして計るかです。
現在ならば、本日までの累計再生数から昨日までの累計再生数を引けばよいのですが、ニコニコ動画で公開されている再生数は、動画が削除されると減少する(はずの)ため、場合によっては1日の再生数がマイナスになる可能性があります。
そこで今回は、再生ランキングのデータから、近似曲線を求め、1日の総再生数を推定する方法をとりました。

ニコニコチャートの再生ランキングTOP300のデータをエクセルに入力し、近似曲線を求めた結果がこちらです。

累乗曲線で近似をとっていますが、ランキングトップの動画を除き、ほぼ近似した曲線が得られています。
決定係数もどちらも0.97前後という非常に高い数値をとっており、充分信用に足る近似曲線です。
累乗曲線はその性質上、0になることがないので、10000番目までの推計値(300位までは実測値)の合計を1日の総再生数とみなします。

さて、その数値を使って、デフォルトランキングTOP100の総再生数をみなし1日総再生数で割ったところ、次の結果が得られました。
本当は前後1週間で平均した値を用いて判断すべきでしょうが、この割合は日ごとによる変動は少なそうですから、有意な値として採用します。
2007/08/25:27.30%
2012/01/19:20.47%
以上のように、やはりRC期のほうが、現在に比べてデフォルトランキングへの依存度が高かったように推測されます。
結論として、RC期はマイリストランキングページが非常に重要な動画案内所となっていたことが証明できると思います。


次に分析したのは、「それぞれの日の、デフォルトランキングTOP100に入った動画の各再生数と、再生ランキングTOP100に入った動画の各再生数の差」です。
この結果で判断されることは、デフォルトランキングにランクインする動画を中心に見ていた人の割合です。
少し詳しく説明すると、再生ランキングは文字通りニコ動の中でその日に再生された動画を順番に並べたランキングです。デフォルトランキングはそれと若干意味合いが異なり、その日にもっともみんなに『評価された』動画のランキングなのです。
この差に乖離があると、どういうことが言えるのでしょうか。みんなに『評価された』動画が再生ランキングに入ってこないというのは、一部で評価の高い動画がユーザー全体としては再生されていないということです。つまり、この差はユーザーの嗜好の分散化を表す数値であると言えます。逆に、その差が少ないならば、ユーザーはあまり嗜好の偏りなく、デフォルトランキングの動画は通り一遍見ているということになります。そのことはまた、評価の高い動画というのは、ユーザー全体が見ているという論理をも成り立たせます。

実際にグラフを見た方が理解が早いかも知れません。

赤い実線で描かれているのが再生TOP100のグラフ、青い実線で描かれているのが、デフォルトランキングにランクインした動画を、再生数順にソートした数値のグラフです。
おわかりいただけるでしょうか。お互いの差が一目瞭然です。
2012年のグラフが10位台のあたりからどんどん差が開き始めるのに対し、
2007年のグラフは、80位のあたりからようやく2本の差が開き始めています。

この結果から、いかに2007年当時はみんながデフォルトのマイリストランキングに頼って動画を見ていたかがわかると思います。
また、『ニコ厨』と呼ばれるメインユーザーが、ジャンルの偏りなく幅広い動画を見ていたということも、同じく推測できると思います。
このデータも、それぞれ同日の比較であるかぎり、数値自体の変動はあっても、傾向は似たものになるでしょうから、その時期の特徴を表していると採用したいと思います。


最後に、このデータは日ごとでの数値変動が大きすぎるので、参考資料として紹介させていただきます。
再生ランキングTOP300(実測値)をグラフに描いたものです。

ニコニコ動画のユーザーはこの5年で大きく増えましたが、デイリーTOP5くらいまでの再生数にあまり差はないようです。
増えているのは、TOP10からTOP200くらいまでの部分で、これが週単位などで平均を取っても同じ傾向が見られるならば、次のことが仮説として立てられます。

この間増加したユーザーは、見る動画のジャンルを絞りながら見ている。

まぁ今更、という感じですが、理論的にはこういうことです。
今回の分析での副産物として、再生数上位10000動画の積算再生数を推定しました。この差はなんと1日300万再生です。
しかし、再生数トップの動画の再生の差はたった2万です。グラフを見ると、実際に増えているのはTOP10からTOP200までの中位層。
ここから、現在は毎日ニコ動を利用する人でもその日のランキングトップを見なくなり、各々が応援しているジャンルの作品の伸びているを中心に見ているということが裏付けられるかもしれません。
たった1日だけのデータで決めつけてしまうのは早計ですが、週単位くらいにまでデータの範囲を広げれば、そのことが言えるかも知れません。

5年の差というのは大きいもので、ニコニコ動画のユーザーの嗜好はここまで分散化しているのかもしれませんね。

本日は以上です。早くミクさんについて書きたいなぁとは思っているのですが。


【追伸】
1日1エントリーのつもりで始めましたが、予想以上に分析やエントリー執筆に時間がかかっています。
ボク自身、リアルの事情もございますので、このブログの更新は不定期とさせてください。
また、今回は最初の研究と言うことで、執筆と平行して更新していますが、次回の研究からは、執筆を完了してから1日1回更新していく形を取りたいと思います。
エントリーに対するコメントで期待や応援をいただいていますが、1日でも早く更新できるよう努力しますので、この件は何卒ご容赦ください。